デイサービスの送迎トラブル5つの原因と明日からできる防止策

デイサービスの送迎トラブル5つの原因と明日からできる防止策

※本記事は2025年9月12日時点の情報を元にして作成されています。

デイサービスの送迎業務は、利用者にとって「一日のはじまりと終わり」を彩る重要なサービスです。

しかし、その裏側では交通事故のリスク、利用者や家族からのクレーム、近隣住民との摩擦など、多岐にわたるトラブルが絶えません。これらの問題は単なる個人のミスだけではなく、複雑な送迎計画、スタッフの負担増といった構造的な課題も根ざしています。

本記事では、送迎現場で頻発するトラブルを5つの類型に分け、その根本原因を深掘りします。その上で、経験や勘に頼る従来の方法から脱却し、テクノロジーを活用して安全性と業務効率を飛躍的に向上させる具体的な解決策を提示いたします。

1.デイサービス送迎で頻発する5つのトラブルとその原因

送迎業務では、現場の職員が日々さまざまなトラブルに直面しています。ここでは、これらの問題を具体的に分類し、その背景にある原因を探ります。

利用者・家族からのクレーム（時間、対応）

送迎時間の遅延は、最も頻繁に発生するクレームの一つです。家族の仕事の都合やヘルパーの訪問時間など、厳密な時間指定がある中で、交通渋滞や予期せぬ対応により計画通りに運行できないケースが後を絶ちません。

また、職員の接遇態度に関するクレームも深刻な問題です。送迎スタッフは施設の「顔」として、利用者や家族と最初に接する重要な役割を担っています。しかし、過密なスケジュールによる焦りや疲労から、丁寧なコミュニケーションがおろそかになり、「態度が冷たい」「説明が不親切」といった不満につながることがあります。
このような厳しいクレームが続くと、職員は精神的に追い詰められ、送迎業務そのものを敬遠する原因にもなりかねません。

交通事故・ヒヤリハットの発生

送迎業務は、常に交通事故のリスクと隣り合わせです。特に夕方の17時から19時の時間帯は、日没や一日の疲れが重なり、交通事故が最も発生しやすい「魔の時間帯」とされています。

事故の原因は、単なる運転技術の問題にとどまりません。過密なスケジュールが引き起こす「急がなければ」という焦りは、安全確認の怠りや無理な運転を誘発します。

乗降時の転倒・怪我

利用者の乗降介助は、細心の注意が求められる業務です。特に利用者の自宅環境は千差万別で、砂利道で車椅子が使えなかったり、玄関先に段差があったりと、バリアが多い場所での介助は非常に難易度が高くなります。雨や雪などの悪天候時には、転倒リスクはさらに高まります。

また、福祉車両特有の操作も事故の原因となり得ます。リフトやスロープの操作ミス、車内での車椅子の固定不備などは、利用者の大きな怪我につながりかねません。
実際に、送迎時ではありませんが、利用者が職員の介助を拒否した状況でも、事業所側が安全配慮義務を怠ったとして賠償責任を負った判例が存在します（横浜地裁平成17年3月22日判決では、デイサービス利用者がトイレで転倒した事故において、利用者が「一人で大丈夫」と拒否したにも関わらず、事業所側に説得・介助義務があったとして7割の過失が認定されました）。

近隣住民との駐車・騒音問題

送迎業務は事業所の敷地内だけで完結せず、地域社会の中で行われる活動です。そのため、近隣住民との関係性への配慮が不可欠となります。特に都市部や住宅密集地では、送迎車の駐停車がトラブルの火種になりがちです。道幅の狭い道路での停車が通行の妨げになったり、他人の家の駐車場前に無断で駐車してしまったりするケースが後を絶ちません。

たとえ警察から駐車許可証を得ていたとしても、マナーの悪い停め方をすれば、苦情や許可の取り消しにつながる恐れがあります。
また、朝夕の送迎時間は住民の生活時間と重なるため、車のアイドリング音や利用者の話し声が騒音クレームに発展することもあります。

ドライバーの心身への過度な負担

送迎ドライバーは、「他人の命を預かっている」という強いプレッシャーの中で業務に従事しています。運転技術に自信がなかったり、覚えるべき業務が多岐にわたったりすることも、大きなストレス要因です。

加えて、送迎業務は常に時間に追われ、予定通りに運行できることの方が少ないのが実情です。利用者の当日の体調変化や、家族からの急な要望など、予測不能な出来事が次々と発生します。これらの対応に追われながら、過密なスケジュールをこなすことは、ドライバーの心身を著しく疲弊させます。

2.なぜデイサービスの送迎トラブルは無くならないのか？構造的な課題

トラブルが繰り返し発生する背景には、介護業界特有の構造的な課題があります。

複雑化する利用者ニーズと過密スケジュール

利用者や家族からの要望は、年々多様化・複雑化しています。「午前中の早い時間に来てほしい」「この利用者さんとは一緒の車にしないでほしい」といった個別ニーズに可能な限り応えようとすることは、サービスの質を高める上で重要です。

しかし、限られた車両と人員の中でこれらの個別ニーズをすべて満たそうとすると、おのずとスケジュールは過密になります。人間の頭脳で、日々変動する無数の条件を考慮しながら、安全性と効率性を両立させた最適なルートを導き出すことには限界があります。

結果として、移動時間に余裕のない、少しの遅れも許されない過密なスケジュールが組まれがちです。この状態では、ドライバーは常に時間に追われ、安全運転への集中力や利用者への丁寧な対応が困難になります。個別ニーズへの対応と運行効率はトレードオフの関係にあり、人手による最適化の限界点が、サービスの質と安全性の天井を決定してしまっているのです。

不十分な情報共有とコミュニケーション不足

送迎の現場では、日々さまざまな情報が発生します。「Aさんの家の前の道は、工事で通りにくい」「Bさんは今日、少し足元がふらついていた」といった情報は、安全な送迎に不可欠なものです。
しかし、多忙な業務の中で、これらの情報が口頭での伝達や個人のメモにとどまり、組織全体で共有されないケースが散見されます。

管理者が個々の送迎現場の状況をリアルタイムで詳細に把握することは難しく、適切な指導や改善策を講じることが困難な状況にあります。結果として、あるドライバーが経験した「ヒヤリハット」が他のドライバーに共有されず、同じ場所や状況で別のドライバーが重大な事故を起こしてしまう、という事態も起こり得ます。
このような情報のサイロ化は、個々の小さな気づきを組織の学習機会に変えることを妨げ、いずれ大きなトラブルとして表面化する土壌を育んでいるのです。

IT化（DX化）の遅れが招く業務の非効率とリスク

多くのトラブルの根底には、業務全体のIT化（DX化）の遅れが存在します。送迎計画の作成が、ホワイトボードやExcelといったアナログな手法に依存している事業所は少なくありません。
これにより、土地勘や経験が豊富なベテラン職員でなければ効率的な計画が立てられない「属人化」が生じ、その職員が不在の際には業務が滞るというリスクを常に抱えています。

この問題は送迎計画にとどまりません。利用者ごとの注意点や当日の体調変化、道路工事といった重要な情報が、口頭や手書きのメモで共有されるため、伝達漏れや誤解が生じやすくなります。また、送迎実績や運転日報、ヒヤリハット報告といった記録業務も手作業で行われることが多く、職員の時間を奪うだけでなく、記入漏れや不備が発生する温床となっています。

さらに、客観的なデータに基づいた安全運転指導も困難で、車両の日常点検なども紙ベースの管理では徹底が難しい状況です。このように多岐にわたる業務でのIT化の遅れが、非効率とリスクを生み出し続けているのです。